新型コロナウイルス感染症は、感染に対する不安は無論のこと、これに伴う行動制約等によるストレスを含め、国民の心理面にも多大な影響を及ぼしています。2020（令和 2）年 9月に厚生労働省が実施した調査によると、感染拡大後、何らかの不安等を感じた（「神経過敏に感じた」「そわそわ、落ち着かなく感じた」「気分が落ち込んで、何が起こっても気が晴れないように感じた」）人は、同年 4～5月に 6割を超えたほか（63.9％）、6～7月は 55.9％、8～9月（調査時点）は 45.0％と高い水準となっています。また、これまでもアジア通貨危機やリーマンショック、東日本大震災など、雇用情勢が急激 に悪化した際に自殺者が急増する傾向が見られましたが、今般の新型コロナ ウイルス感染症の影響下においても、2020年 7月以降、前年同月と比較して自殺者数が 増加傾向にあり、特に女性が増加しています。
このような状況下で、メンタルヘルスケアが重要視されており、会社としても対応が迫られています。今回は、メンタルヘルスケアの上司の役割についてお伝えします。
＜目的による分類：メンタルヘルスケアの基本的な考え方＞
一次予防：メンタルヘルス不調未然に防ぐ
ストレスの自己管理であるセルフケアと管理監督者による部下への支援や環境整備などによるラインケアが柱となります。
二次予防：メンタルヘルス不調を早期に発見し適切な措置を行う
メンタルヘルス不調の早期発見やメンタルヘルス不調者への適切な対応を行います。
三次予防：メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰支援等を行う
休業者の職場復帰と就労継続のための支援を行います。
＜実施主体の分類：継続的に行う４つのケア＞
メンタルヘルスケアを効果的に進めるには、下の４つのケアが継続的かつ計画的に行われるようにする必要があります。
１．セルフケア
自分自身で行うことのできるメンタルヘルスケア
２．ラインによるケア
管理監督者が行うケア。日頃の職場環境の把握と改善、部下の相談対応を行うことなど
３．事業場内産業保健スタッフ等によるケア
企業の産業医、保健師や人事労務管理スタッフが行うケア。労働者や管理監督者等の支援や、具体的なメンタルヘルス対策の企画立案を行うことなど。
４．事業場外資源によるケア
会社以外の専門的な機関や専門家を活用し、その支援を受けること。
＜管理監督者による部下への接し方について＞
今回は、上記の４つのケアのうちライン（管理監督者）によるケアの内容を取り上げます。
１．いつもと違う部下の把握と対応
ラインケアで大切なのは、管理監督者がいつもと違う部下に早く気付くことです。いつもと違う感じをもつのは、部下がそれまでに示してきた行動様式からずれた行動をするからです。日頃から部下に関心を持って接しておき、いつもの行動様式や人間関係の持ち方について知っておきましょう。
「いつもと違う」部下の様子
例：遅刻、早退、欠勤が増える／休みの連絡がない（無断欠勤がある）／残業、休日出勤が不釣合いに増える／仕事の能力が悪くなる。思考力、判断力が低下する／業務の結果がなかなかでてこない／報告や相談、職場での会話がなくなる（あるいはその逆）／表情に活気がなく、動作にも元気がない（あるいはその逆）／不自然な言動が目立つ／ミスや事故が目立つ／服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
２．部下からの相談への対応
職場の管理監督者は、日常的に部下からの自発的な相談に対応するよう努めなければなりません。そのためには、部下が上司に相談しやすい環境や雰囲気を整える事が必要です。例えば、話を聴く（積極的傾聴）、適切な情報を提供する、必要に応じて事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すなどが挙げられます。
そして管理監督者がこのような適切な対応ができるようになるためには、事業者が管理監督者に部下の話を聴く技術を習得する機会を与える事が重要です。
３．メンタルヘルス不調の部下の職場復帰への支援
復職者は様々な心配をしながら出社しています。そうした復職者の気持ちを受け止めることが、管理監督者には望まれます。「上司は自分をわかってくれている」と感じる事ができれば、復職者の職場での緊張は大幅に軽減されます。そして、管理監督者と復職者のそのような関係は、同じ職場で働く他の部下たちの緊張を和らげる効果をもっています。
冒頭でもお伝えしたように、新型コロナウイルス感染症によりメンタルヘルス不調者や自殺者が増えています。
会社の体制やメンタル不調者への対応についてお困りの場合、対応事例が多い弊社にどうぞご相談ください。
引用・参考文献 厚生労働省「令和3年版厚生労働白書－新型コロナウイルス感染症と社会保障」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/20/
厚生労働省「職場における心の健康づくり」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
厚生労働省「こころの耳」